我が家の子どもたちはシチューが大好き。
パンにディップしながら、シチューを食べるのであれば、普段嫌がるような野菜でも、普通に食べてくれたりします。
ただ、市販のシチュールーだと、煮込み野菜・肉の中に入れるだけで楽だけど、やっぱり添加物が入ってくるので、できれば添加物がないシチューにしてあげたい。

そんな思いでシチューを作り始め、小麦粉は、片栗粉のようにとろみを出すものでしょ?と思い、
できるだけ油も入れずに作りたかったので、肉・野菜を煮込んだ後に、小麦粉をふるいにかけていれてみると……
あっという間に無数の白い塊(ダマ)が出現。泡立て器でいくら力強くかき混ぜても、しぶとい塊は潰れず、ザラザラとした口当たりの残念なソースになってしまいました。

今回は、小麦粉の主成分であるデンプンの分子挙動や粉体物理の視点から、ダマになってしまう理由を調べて、その対策を考えてみました。

1. そもそも小麦粉はなぜ最初から「塊(粉塊)」になりやすいのか?

袋を開けたばかりの小麦粉をスプーンですくうと、サラサラの砂のようには崩れず、小さな雪玉のようにホロッとした塊を作っていることがあります。
お菓子のレシピを見ても、小麦粉を最初にふるい、ダマをなくす行程を見かけるケースがほとんどで、最近は市販品としてダマにならない小麦粉まで売っています。
シチューになる以前に、小麦粉がミセルのように、ダマになりやすい傾向があるということは明示ですが、その理由は何なのでしょうか。

小麦粉のダマ=微粒子特有の粉体物理現象による「二次粒子(アグロメレート/凝集体)

製粉された小麦粉の粒(一次粒子)は、直径わずか15〜40μm(1ミリの1/50程度)しかありません。
物体が小さくなればなるほど、自分の重さで落ちてバラバラになろうとする力(重力)は急激に弱まり、代わりに粒子同士が引き合う表面引力が圧倒的に強くなります。

小麦粉が引き合ってしまう主な理由は以下の3つです。

  1. 液架橋力(えきかきょうりょく / 毛細管力)
    乾燥して見える小麦粉ですが、実は約13〜15%前後の水分を含んでいます。粒子と粒子が触れ合うと、そのごく狭い隙間に空気中の水分が凝縮し、微小な「水滴の橋」が架かります。この水の表面張力と毛細管負圧によって、粒子同士が強力に引き寄せられます。
  2. ファンデルワールス力(分子間力)
    あらゆる物質の分子間に働く普遍的な引力です。粒が細かくなるほど表面積(比表面積)が広がるため、粒子同士がペタペタと吸着し合います。
  3. 静電気力(接触・摩擦帯電)
    製粉時の摩擦や袋の中での振動で帯電し、局所的なプラスとマイナスの引き合いで粉同士が引き寄せられます。

お菓子作りで「薄力粉をあらかじめふるう」のは、網を通すせん断力(外力)でこの液架橋や分子間力を断ち切り、一次粒子に近いバラバラな状態へ戻すためなのです。

2. 熱々の牛乳に入れると何が起きるのか?「ダマ」ができる分子メカニズム

小麦粉の主成分の約70〜75%はデンプンであり、ホワイトソースのとろみの正体は、このデンプンが加熱されて起こる「糊化(こか / アルファ化)」です。

デンプンの糊化(アルファ化)

生のデンプン(ベータデンプン)はブドウ糖が規則正しく並んだ硬い結晶構造をしています。水とともに約60℃近くまで加熱されると、分子の隙間に水が入り込んで膨らみ(膨潤)、やがて結晶が崩れて網目状に広がり、粘り気のあるゲル状に変化します。

熱い牛乳に直接入れた瞬間、小麦粉のダマに対して起こる事象

前述の通り、小麦粉は最初から「目に見えない小さな塊(二次粒子)」を無数に作っています。これを熱い牛乳(60℃以上)にそのまま落とすと、次の反応が瞬間的に連鎖します。

① 【外層のフラッシュ糊化】
外側のデンプンだけが瞬時に60℃を超え、吸水して糊化(粘着質のゼリー膜化)
② 【疎水バリアの形成】
外側の糊が強固な「殻(シェル)」になり、内部への水の浸透を遮断
③ 【ダマの完成】
「外側はモチモチの膜、内側はパサパサの乾いた生粉」というカプセル構造が固定

一度この糊の殻が完成してしまうと、外側から泡立て器でどれだけ力任せに混ぜても、内側の生粉には水分も熱も届きません。これが、熱い液体に粉を入れたときにできる「ダマ」の正体です。
こうなってしまうと、小麦粉のダマを崩すことは難しくなってしまうので、シチューの汁を濾すなどして、ダマを取り除くか、作り直すしか方法がなくなってしまいます…。。。

3. ダマにならないコツは、油分(バター等)と最初に混ぜ、糊化が起こらない温度帯で小麦粉をかき混ぜること

洋食の基本、ということを謳ったレシピ集では、ホワイトソースのレシピとして「バターで小麦粉を炒め、冷たい牛乳を少しずつ加える」という工程で書かれていることが多いのですが、これには3つの物理化学的な合理性があります。

  1. 油脂による粒子のコーティング(物理的隔離)
    バターの脂質が小麦粉粒子の一つひとつを薄い油膜で包み込みます。粒子同士が油で隔てられるため、水分が入ってきても粒子同士が直接くっついて凝集することができません。
  2. デキストリン化による粘度緩和
    熱したバターの中で小麦粉を炒めることで、デンプンの長い分子鎖が熱分解されて短くなり(焙焼デキストリン化)、糊化時の過度なネバつきや粉臭さが抑えられます。
  3. 糊化開始温度(約60℃)の手前での均一分散
    炒めたルーに冷たい(または人肌の)牛乳を注ぐと、液全体の温度はいったん60℃未満まで下がります。デンプンが吸水して膨らむ前に、液中に均一な分散状態(サスペンション)を作れるため、その後の再加熱で鍋全体が一斉に均一に糊化します。

シチューの場合、家庭で作る分には、上記の細かいホワイトシチューのような行程を踏まずとも、
まず具材を炒め、火を止めてから、ふるった小麦粉を入れ、全体になじませる
という流れでも、上記の1.&3.の減少が起こり、なめらかなシチューを実現できます。
(油分はバターの代わりに、肉・一緒に入れた油、となりますが…)
かつ、具材の周りに粉がまぶされる=具材表面に薄く引き伸ばされた状態となるので、微粒分子が一か所に密集したクラスターにはなりにくくなります。

4. 市販の「ダマにならない小麦粉」はどういう原理なのか?少々割高にはなるが、ふるう手間・失敗リスクを減らすには良い手段

スーパーで見かける「水に溶けやすくダマにならない小麦粉(顆粒タイプなど)」は、なぜ液体に直接振り入れても溶けるのでしょうか。
その秘密は、製粉技術による「造粒(顆粒化)加工」にあるようです。

  • 通常の小麦粉:粒子径が15〜40μmと非常に細かく、液架橋力でくっついて塊になりやすい。
  • ダマにならない小麦粉:粉に微量の水分と蒸気を当て、粒子同士をフワッと連結させて直径100〜200μm程度のポーラス(多孔質)な大きな粒に成形してあります。

粒をあえて大きくし、内部に無数の隙間(空隙)を持たせることで、水に触れた瞬間に毛細管現象で中心部まで一気に水が吸い込まれます。表面に糊の膜ができる前に顆粒全体が自発的にバラバラと液中に崩壊・分散するため、ダマにならず綺麗なとろみがつきます。

5. ダマ知らずのホワイトソースを作るアプローチ

家庭でホワイトソースやシチューを作る場合、以下のいずれかの方法が考えられます。

方法手順(+原理に関する補足)おすすめのシーン
① 王道のクラシック方式バターで小麦粉を炒め、火を止めて冷たい牛乳を数回に分けて伸ばす

(原理)
・油脂コーティング
・低温分散
コク深くリッチな仕上がりにしたい時
※バターに含まれる微量な乳タンパク質・乳糖と、小麦粉のアミノ酸・還元糖が反応し、メイラード反応や糖の熱分解が起きます。これにより、クッキーを焼いたときのような香ばしさや、ナッツ・ビスケットを思わせる深い芳香成分(ラクトン類やピラジン類など)が生まれます
② 事前分散方式耐熱ボウルに小麦粉と冷たい牛乳(大さじ2〜3)を入れ先に完全に溶かしてから、残りの牛乳・バターを加えて加熱&撹拌。
シチューの場合は、炒めた具材に、火を止めて、ふるった小麦粉と混ぜ合わせるのでもOK

(原理)
・ごく少量の液体と混ぜ、ペースト状にすることで、強烈な摩擦(剪断力)でダマをすりつぶす
・ダマがすりつぶされた状態で、低温分散
洗い物を最小限にしたい時
③ 顆粒小麦粉を活用する方式温めた牛乳+バターに、顆粒タイプ小麦粉を振り入れながら混ぜる

(原理)
・多孔質構造による急速吸水・分散
手軽にとろみの濃さを微調整したい時

【おまけ①】なぜ薄力粉は強力粉よりも塊になりやすいのか?

粉を扱うとき、「強力粉はサラサラしているのに、薄力粉はぎゅっと固まりやすい」と感じたことはないでしょうか。ここにも明確な理由があります。

比較項目薄力粉(軟質小麦)強力粉(硬質小麦)
粒子の大きさ小さい(約15〜40μm中心)大きい(約40〜100μm中心)
粒子の形状胚乳が柔らかいため、細かく崩れて不定形胚乳が硬いため、角張ったブロック状に割れる
比表面積非常に広い(接触面積が大きい)相対的に狭い
粉の挙動液架橋力・分子間力が強く働き、ダマになりやすい粒子同士の接触が少なく、サラサラと流動性が高い

薄力粉は粒子が極めて細かいため、空気中の水分による液架橋力やファンデルワールス力が強烈に働き、手で握るだけでも簡単に塊になります。だからこそ、ホワイトソースや製菓で薄力粉を使うときは、事前の「ふるい」や「油脂コーティング」がより重要になるのです。

【おまけ②】フライパンを傷めない!ホワイトソース作りに便利な調理器具

ホワイトソース作りで悩ましいのが、「底の焦げ付きを防ぐためにしっかり混ぜたいけれど、金属ホイッパーを使うとフッ素樹脂加工(テフロン)のフライパンが傷ついてしまう」という問題が生じがちです。
そこで、以下のようなアイテムと使うと、上記の問題が起こるリスクを下げられますので、キッチングッズを増やしてもいいよ!という人はおすすめです。

1. シリコンホイッパー(シリコンコーティング泡立て器)

ワイヤー部分が耐熱シリコンで覆われているホイッパーです。

  • メリット:フライパンのコーティングを傷めずにシャカシャカと勢いよく撹拌できます。牛乳を注ぎ入れた初期の「分散・乳化フェーズ」で、手早く均一に混ぜ合わせるのに最適です。

2. 耐熱シリコンスパチュラ(ゴムベラ)

とろみがついてきた終盤の「糊化フェーズ」で活躍します。

  • メリット:フライパン底面や角のカーブにぴったり沿うため、沈殿して焦げ付きやすいデンプン質を面でキレイに剥ぎ取ることができます。

牛乳を加えて伸ばす工程では「シリコンホイッパー」で素早くダマを解散させ、ソースにとろみがついてきたら「シリコンスパチュラ」に持ち替えて底をこそげるように仕上げると、フライパンを守りつつ滑らかソースを作ることができます。

まとめ

  • 小麦粉が袋の中で固まりやすいのは、ミセルではなく15〜40μmの微粒子特有の「液架橋力(水分約14%)」や「分子間力」による二次粒子(凝集)
  • 熱い牛乳に入れると、外層のデンプンだけが瞬時に糊化(約60℃〜)して殻を作り、内側に生粉を閉じ込めるためダマになる。なので、糊化が起こらない温度帯で小麦粉をのばす作業が必要
  • ホワイトソース作りにおいて、先にバターで炒めるのは、油膜で粒子を隔て、牛乳でいったん温度を下げて均一に分散させてから糊化させるため。炒めた具材と最初に混ぜる等でも代替できるので、最初に油と混ぜることを推奨

料理の基本、と言われるようなレシピには、やはり科学的な最適解が詰まっているのだなと、改めて感じました。
ただ、ホワイトソースをバターと炒めて・・・というのは、小さい子どもがいる家庭では、その時間すらもったいないと感じることも多いと思います(我が家は子どもと遊ぶ時間を少しでも増やしたいので、お誕生日ディナー等の特別なタイミングを除き、基本時短料理しかしません)。
ので、シチューやホワイトソースも、最初に具材になじませる、ペースト状にしてダマをなくす、といった方法で、時短していく、または市販品のダマにならない小麦粉を使って、失敗せずにそこそこ美味しいものを作る方法を選ぼうと思います。

子どもが大きくなったら、バターで小麦粉を炒めて、しっかりメイラード反応を起こしたレシピと、ペースト状にするなどで小麦粉を事前に分散させて手軽に作ったレシピで、食べ比べてみたいなと思います!
(そんな自由研究を将来一緒にしたいな笑)

参考文献

  • クラシル「「ダマになる」とは?原因や防ぐためのポイントを徹底解説!」
  • 木下製粉株式会社ホームページ
  • 多糖類.com
  • cotta「共立てスポンジのダマ 原因と対策方法は?」

等を基に作成