小麦粉を米粉に置き換えて、パンを焼こうとすると膨らまない
我が家の4歳児は、ご飯よりパン派。ショッピングモールでお腹が空いてくると、ベーカリー(またはお菓子屋さん)へ引き寄せられていきます。
我が家はオーガニックでも、グルテン除去を目指すわけでもありませんが、小麦粉を使った食品ばかりではなく、できればご飯(白米・雑穀米等)とバランスよく食べてほしいと考えています。
という中で見つけたのが、米粉パン。美味しい米粉パンがあれば、罪悪感なくパンをあげられるのでは、と色々な場所で米粉パンを見つけては、添加物をチェックしてみたのですが、少なくとも私が見た範囲では、添加物が含まれる商品ばかり。通常の小麦粉のパンに関しては「無添加」と謳うパンをよく見かけるのですが、米粉パンに関しては、無添加と記載されている商品がほぼ見つかりませんでした。
では、家で作ってみようと、ホームベーカリーで小麦粉で食パンを作る流れで、一部小麦粉→米粉に置き換えて焼いてみたのですが・・・
結果は、思ったように膨らまず、かなり固いパンになってしまいました。
薄く切って、焼けば、柔らかめのクラッカーのようには食べられるのですが、我が家の4歳児が求めるパンとはかけ離れたものになってしまいました…。。。
そこで、小麦粉と米粉で、パンとして焼く際のメカニズムが違うのか、さらには米粉パンをふっくら焼き上げるためには、どのようにすればいいのか、という点について調べてみました。
小麦粉の場合は、捏ねてグルテンが形成されることで膨らむが、米粉でグルテンは形成できないので、グルテン代用品が必要
小麦粉には「グリアジン」と「グルテニン」という2つのタンパク質が含まれています。これらに水を加えてこねると、グルテンという弾力のある網目構造が作られます。そして、発酵という工程の中で、イースト(酵母)が糖を分解して出す炭酸ガスを、このグルテンの網目が風船のゴムのようにしっかりと包み込みます。
これによって、ガスが逃げずに溜まるため、小麦粉のパンは、上に高く、ふんわりと大きく膨らみます。
一方、米粉にはグルテンを作るタンパク質が含まれていません。なので、米粉でパンを作ろうとしても、ガスを保持するための「風船(網目)」がなく、発生したガスがそのまま外に漏れ出してしまい、小麦粉パンのようにふんわり膨らむことはできません。
そのため、米粉のパンは、縦に膨らむ力が弱く、小麦パンに比べて「どっしり」とした、あるいは「きめ細かい」質感になります。
では、市販の米粉パンはしっかり膨らんでいるのは何故なのでしょうか?
膨らませるための手段としては、大きくは3種類あり、
- 増粘剤の添加: グルテンの代わりに「HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)」などの添加物を使って、ガスの気泡を保持することで膨らませています
- 小麦グルテンの追加: 「米粉パン」として売られていても、実は小麦のグルテンだけを添加して膨らませているものがあります
- アルファ化米粉: 米粉の一部を糊状にすることで、粘りを利用してガスを閉じ込めます
「米粉パンは、小麦粉のパンが食べれない人/食べたくない人のために開発された商品」と思ったいたのですが、「米粉の美味しさ」と「小麦パンの膨らみ」のいいとこ取りをしようと、小麦グルテンが添加されたパンも開発されているというのは驚きでした。(小麦アレルギーでなければ、増粘剤といった添加物より、天然で存在する小麦グルテンを加えた方が健康に良いよね、という発想なのでしょうか…?)
グルテンで膨らむ原理は、網目の中に粘性のある成分が入り込み、空気を保持できるから
せっかくなので、グルテンがどのような原理で、空気をパンの中に保持し、ふわふわにしてくれるのか、についても調べてみました。(やはり理系の母としては、化学的な部分まで気になるもの…)
グルテンを構成するのは、小麦特有の貯蔵タンパク質2種類で
- グリアジン (Gliadin):単一の鎖からなる球状のタンパク質
分子同士の結びつきが弱く、自由に動きやすいため、生地に粘性(伸び)を与えます。 - グルテニン (Glutenin):複数の分子が連なった巨大な重合体(ポリマー)
分子の末端にあるシステイン残基が、隣の分子と「分子間ジスルフィド結合」を作ることにより、数百万という分子が数珠つなぎになった巨大な「重合体(ポリマー)」を形成します。
鎖が長く絡み合っているため、引っ張ると元に戻ろうとする力、つまり「弾性(コシ・強度)」を生み出します。
小麦粉に水を混ぜて「こねる」という物理的なエネルギーを加えると、上記2種類の成分が以下のように変化して「グルテン」になります。
- 水和: 水分子がタンパク質の間に入り込み、ガチガチだった分子を動けるようにします。
- 結合の組み換え: こねることで、もともと丸まっていたグルテニンが引き伸ばされ、隣の分子とジスルフィド結合を次々と作り替えていきます。
- 網目構造の完成: 引き伸ばされた「グルテニン」の長い鎖の隙間に、球状の「グリアジン」が入り込み、粘りと弾力を兼ね備えた立体的な「グルテン・マトリックス」が完成します。

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一方で、お米の主要タンパク質はオリゼニンという成分であり、タンパク質同士の結びつきが弱く、小麦のグルテニンのように「分子同士が長くつながって巨大な網目を作る」という機能はありません。なので、どれだけこねても「バラバラの粒子が水に浮いている状態」に近いままで、小麦のようなグルテン・マトリックス(網目構造)による膨らみを実現することはできません。
家で米粉パンを焼くためには?
せっかく小麦粉を使わずに作ろうとするので、小麦グルテンを使わずに膨らませたい…としたときにポイントとなる点を調べてみました。
① 増粘多糖類の活用(サイリウムハスクなど)
オオバコなどの植物から抽出される天然の多糖類は、水と反応して強力なゲル状になります。これがグルテンの代わりとして、ガスの気泡を物理的に包み込み、生地に「成形できるほどの保形力」を与えます。
② デンプンの「糊化(こか)」を利用
米粉の一部を熱湯で練ったり、アルファ化米粉(加熱処理済みの粉)を混ぜたりすることで、デンプンをあらかじめ「糊(のり)」の状態にします。この強い粘り気が、発酵中のガスをキャッチするトラップとして機能します。
③ 発酵プロセスの最適化
小麦パンは「一次発酵」「ガス抜き」「二次発酵」と工程を重ねることでグルテンを強化しますが、米粉パンでこれをやると、脆い粘性構造が破壊されてしまいます。 「発酵は一度きり、短時間で一気に焼き上げる」。これが、米粉の物理的限界をカバーする最も効率的な戦略です。
米粉パンの場合、SNSで作った人を調べてみると「失敗した」という事例も複数見ました。その要因と言えそうな点としては、水加減(水分量)がかなり効いているようです。
どうやら、米粉の粒子はデンプンが剥き出しの状態であり、小麦粉に比べて吸水スピードが非常に速く、
水分過多の場合: 生地の粘性が低くなり(シャボン玉の液が薄すぎる状態)、気泡がすぐに割れ、焼き上がりに中央が陥没する「腰折れ」となる
水分不足の場合: デンプンのネットワークが固すぎて、ガスの膨張を許容できず、密度が高く硬いパンになってしまう
また、米粉は製粉方法(気流粉砕か否かなど)によって損傷デンプンの割合が異なり、これによって吸水率が劇的に変わります。レシピの「ml」という数字以上に、自分の手で触れた時の「生地の流動性」を見極める必要がありそうです…
こう調べてみると、家での米粉パンは、慣れてくるまでが大変そうですね…。
我が家は手ごねで鍛錬するつもりはないので、ホームベーカリーで焼けるレシピを調べてみたのですが、
・「パン用米粉」を使う(お菓子用・料理用等では失敗することも多そう)
・米粉パンコースがあるホームベーカリーを使う(こねや焼きの時間、発酵の回数が、小麦粉パンとは異なる)
という条件さえ満たせば、家でホームベーカリーを使って、小麦グルテンなし米粉パンを焼けるレシピが色々とありそうです。
(100%米粉とすると、グルテンの形成がない分、小麦粉のパンと全く同じ触感にはなりませんが)
我が家の子どもたちは、硬い触感は嫌がるものの、お餅ほどではない適度なもっちりパンは好きそうなので、家でも近々試してみようと思います。
参考文献
・農林水産省「米粉をめぐる状況」
・熊本製粉(ミズホチカラのメーカー)公式サイト
・『米粉パンの教科書』
・クックパッド、Instagram等各種SNS